研究概要 |
南西諸島北部でアカヒゲが比較的高密度に生息する鹿児島県十島村中之島地区に調査区約6ヘクタールを設置した。そして,調査区内で繁殖する成鳥と巣立った雛のほぼすべてを捕獲して個体識別用の足輪を装着し,繁殖経過の追跡と個体群パラメータ推定のための調査を昨年度から継続して行った。2003年の繁殖期に,調査区内にテリトリーまたはその一部を持つ個体は96個体であった。2002年の標識個体の再捕獲(または視認)データからは,成鳥では営巣地点の年による移動距離が十分小さかったため年生存率の推定が可能であった。しかし,幼鳥では分散距離が大きく,翌年の再捕確率は年生存率だけでなく分散の影響を強く受けていると考えられた。2002年の繁殖期から2003年の繁殖期にかけてのアカヒゲ成鳥の推定年生存率はおよそ50%前後であったが,雄で約15%ほど高かった。幼鳥の再捕確率は約7%であったが,雌雄の再捕獲数に大きな差があることが明らかになった。この原因としては,幼鳥の分散距離に性差があるか,巣立ち時の性比に偏りがある,などの可能性が考えられ,今後明らかにする必要がある。中之島でおこなった200地点での定点観察では,アカヒゲさえずり個体の密度は2.6±1.7羽/ha(平均±標準偏差)とかなり高密度に生息することが明らかになった。しかし,地形や路網の制約から観察地点の分布には偏りがあっため,中之島における生息密度の分布や生息数推定を行うには,GIS等を利用した環境条件とさえずり個体密度の対応付けが必要と考えられた。
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