研究概要 |
樹皮中に含有されるタンニンの酸化カップリング反応およびリグニンの酸化活性化反応による分子間結合を利用し,樹皮の自己接合を試みた。酸化処理液には,前年度は過酸化水素水を用いたが,本年度はより酸化力の強い過酢酸を用い,これに所定量の鉄イオン(硫酸鉄)を溶解させたものへ国内製材工場より排出されたスギ樹皮を浸漬させ,酸化処理を行なった。酸化処理終了後,水洗した樹皮を油圧式ホットプレスに組み込んだ凸凹組モールド内へ積層した後に熱圧締を行い,自己接合による成形を行なった。 熱圧締条件を等しくした場合,過酢酸処理を施した樹皮からは,過酸化水素水処理を施した樹皮からよりも,動的粘弾性および抗膨潤能に優れた成形体が得られた。また,過酢酸処理を施した樹皮を用いることによってより穏和な条件での熱圧締によって,同程度の抗膨潤能を有する成形体を製造することが可能であった。そのため,熱圧締時の高温高圧によって樹皮繊維が受ける損傷が少なく,より高い動的粘弾性を示す成形体が得られた。これらの結果より,過酢酸処理によっては,樹皮中のタンニンの酸化カップリング反応がより高度に進行することによって,樹皮間の接合がより強固に行なわれることが示唆された。なお,過酢酸処理では,過酸化水素水処理と比較して,熱圧締条件の影響はほぼ同程度であったが,共存させる鉄イオンの濃度の影響は小さくなった。また,酸化処理後の樹皮は,酸化処理液が残存するために,著しく低いpHを示した。一方,これを熱圧締した成形体では,酸化処理液が熱分解することによって,酸化処理前の樹皮の値とほぼ等しい値にまでpHは上昇した。
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