今年度は有明海でナルトビエイの採集を毎月行い、313個体の漁獲物を調査した。漁獲のデータから、有明海には4月頃に来遊し、11月まで湾内で生活することがわかった。水温が15度以下に低下する冬の間は水温の比較的暖かい天草沖、あるいは更に南方へ移動すると推定され、ナルトビエイの分布を決める最大の要因が水温であることが予想された。夏には合計145個体のナルトビエイにビニールチューブ製の標識を付けて放流したが、今のところはこれらの移動を証明するには至っていない。これらの結果は、有明海に急にナルトビエイが増加したことと近年の平均的な水温の上昇とは無関係ではないことを示している。 成長に関しては、脊椎骨を用いた軟X線による年齢査定が可能であることを明らかにし、輪紋の形成時期が主として8月であることを明らかにした上で、焦点から輪紋までの距離を測定してBertalanffyの成長式を求めた。出生体長は雌雄で等しいが、雌の方が成長が良く寿命も長いことがわかった。雌の高齢年齢は16才であった。 繁殖についてはまだ不明な点が多いが、これまでに精巣の組織学的観察から精巣が最小になる9月に精子が形成されることがわかった。一方で、子宮内の受精卵の出現状態から受精の時期は5月から6月の間であることがわかったものの、この時期には精子は形成されておらず、交尾期を推定するには至っていない。5月から6月にかけて受精した卵は約3ヶ月後の8月末には雌の子宮内で体盤幅約400mmに成長し、わずか3ヶ月の妊娠期間を経て出産が行なわれることがわかった。また、成熟に達するまでに5年以上を要し、雌一尾が産む子供の数は最高でも10尾にも満たないため、駆除はナルトビエイ個体群の減少に多大な影響を及ぼすおそれがある。 食性を調べたところ、二枚貝を専食することがわかった。以上、今年度の研究成果をもとに、2篇の研究論文を公表したほか、国内の学会やシンポジウムで4回の講演を行なった。
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