昨年度の10月から3月の間、以下に示した項目の深度分布を相模湾真鶴半島の沖において毎月調査した。 A.細菌とその死滅要因となる生物(鞭毛虫、ウイルス)の現存量:細菌、鞭毛虫およびウイルスの現存量を6ヶ月間を通じて調査したところ、細菌の現存量とウイルスまたは鞭毛虫のそれとの間には、それぞれ有意な相関が認められた。これらの結果は、調査海域における「補食者-被捕食者」および「ウイルス-宿主」といった相互作用が密接に成り立っていたことを意味する。 B.細菌生産:チミジンの取り込み速度から推定した細菌の生産速度は、0.022〜5.3x10^5cells ml^<-1> day^<-1>の間で変化した。これを炭素量に変換すると0.044〜10.6ng C ml^<-1> day^<-1>となる。細菌生産速度と上述した細菌現存量を基に推定した細菌の回転時間は数日〜数十日のオーダーであり、これまで報告されている沿岸域のそれと良く一致した。 C.溶存画分における細菌膜成分:濾過と希釈を組み合わせて行い、海洋表層から細菌とウィルスのみを含む海水を得て、培養を行った。培養液中の細菌とウィルスの数、および細菌外膜成分であるリポ多糖(LPS)の経時的変化を調べたところ、ウィルス(バクテリオファージ)の増加に伴いLPSが細菌の存在するサイズ画分0.2μm以上から0.2μm未満に移行することが明らかとなった。この結果は、ウィルスの溶菌による細菌由来DOMの生成メカニズムを示唆している。また、調査を始めたばかりであるものの、真鶴半島沖合における溶存画分のLPSの深度分布は、細菌の死滅要因である鞭毛虫またはウイルスの数のピークと同じかその付近の深度で高くなる傾向が見られた。 今後は、天然海域におけるLPSの深度分布に対する、細菌の回転時間や細菌死滅要因との関連を調べるこより、天然海域においても培養系で得られた結果を支持する結果が得られるか否かを確かめる予定である。
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