平成14年度の計画どおり、日本系サケ鱗標本の自動鱗相分析装置による分析、遊泳エネルギーコストのアルゴリズムを組み込んだサケ回遊モデルの構築、そして23年分の遊泳エネルギーコストの経年変化をシミュレーションするための風応力データ・海洋データを整えた。サケの鱗分析では、河川は異なるが日本系サケであることが明らかになっているサケの鱗を抽出し、その隆起線の本数と間隔を測定した。そして降海直後から海洋生活期最初の冬季までに対応する隆起線の本数と間隔のデータ化を行った。本研究では降海直後から海洋生活期最初の冬季までの生残に注目するので、サケ回遊モデルを秋から翌年の夏までを1ケースとして計23ケース(23年分)の計算を行うように設計した。具体的にサケ回遊モデルは1X1度グリッドの空間解像度で、そのモデル領域は北緯30度〜60度、東経130度〜西経130度である。モデルの積分時間は10分に設定した。風応力データと海洋データをモデルのフォーシングとして使用できるように時空間的に内挿した。遊泳エネルギーコストはサケの周りの水温とサケの遊泳速度の関数である。そのためモデル内ではサケを粒子として扱い、モデルランの間に粒子の周りの水温と遊泳速度を記録し、サケが秋から翌年の夏までに回遊する間の遊泳エネルギーコストを見積もるようにした。気候値を用いたモデル結果から、海洋の表面流速は地衡流よりもエクマン吹送流の影響が大きく、サケの遊泳速度に影響を及ぼすことが明らかになっている。また日本系サケが冬季に回遊する北太平洋における風応力には経年変化がみられた。これらから、冬季エクマン吹送流はサケ回遊回路や遊泳エネルギーコストの経年変化を十分に生じさせることが示唆される。
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