超音波聴覚を有する魚類が近年発見され、水産資源探査用の超音波が、魚群を威嚇し、資源量の過小推定を引き起こす可能性が現実的なものとなった。そこで、我が国沿岸に生息する水産有用魚種の超音波聴覚を、音刺激に対する魚類頭頂部への誘発電位である聴性脳幹反応を利用して計測し、あわせて、超音波暴露実験により逃避反応行動が誘発される音圧レベルを特定することを計画した。本年度は、超音波領域で魚類の聴覚と反応行動を計測するシステムを作成した。 まず、低周波音の再生に適した現有の聴性脳幹反応計測システムに、超音波対応の小型のトランスデューサーを加え、水中での再生ができるよう改造した。また、超音波領域まで良好な増幅特性を有するパワーアンプを購入し、超音波再生用のトランスデューサーと組み合わせて、超音波暴露実験を行うシステムを構築した。さらに、実験に用いた音圧を校正するため、広帯域水中マイクロホンと専用増幅器で構成される超音波信号モニタリングシステムを構築した。これにより、200kHzまで、ほぼ一定の受音特性を有し、暴露音圧を正確に計測することができるようになった。 一方、小さな水槽中での音場解析を行い、暴露した音の音圧および周波数特性をよい精度で制御できるようにした。この結果は、専門の国際誌に掲載された。また、これまで魚類の頭部を水面すれすれに固定して行わなければならなかった、聴性脳幹反応の実験を容易にするため、生体用ボンドで頭頂部に電極を接着し絶縁して、水中においても聴性脳幹反応の記録ができる手法を開発した。これにより、大型魚でも聴性脳幹反応の計測が容易となった。
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