研究概要 |
海藻精油中には、高等植物の場合にみられるように、短鎖アルデヒド類(C6,9)が認められ、脂肪酸からリポキシゲナーゼによるハイドロパーオキサイドの生成、引き続くハイドロパーオキサイドリアーゼを介する経路が推定される。しかしながら、海藻におけるこれら一連の経路に関する報告例は少ない。そこで、海藻中の脂肪酸変換様式の解明の一環として、海藻から粗酵素液を調製し、脂肪酸の添加実験により、相当するハイドロパーオキサイドの生成の確認ならびに構造決定を行った。 まず、連続蒸留抽出(SDE)法により、様々な海藻から精油を調製し、GC-MSにより分析を行ったところ、藻体によって長鎖,中鎖,短鎖アルデヒドがそれぞれ検出された。海産緑藻ボタンアオサ(Ulva conglobata)においては、短鎖アルデヒド類[hexanal,(2E)-2-hexenal,(3Z)-3-nonenal,(2E)-2-nonenal,(2E,6Z)-2,6-nonadienal]が確認されたため、この藻体を用いて添加実験を試みた。すなわち、リン酸バッファー中で藻体を摩砕し、濾過することにより粗酵素液を調製し、次に、この粗酵素液中へ基質としてリノール酸,リノレン酸を添加し、変換反応を実施した。生成物の確認をRP-,NP-HPLCおよびGC-MS分析を行った結果、ボタンアオサの場合、(9R)-HPODE(>99%ee),(9R)-HPOTrE(>99%ee)が主に得られることが分かった。 以上の結果より、短鎖アルデヒド,特にC9アルデヒドであるnonenal, nonadienalの生合成において、相当する(9R)-ハイドロパーオキサイドを経由する機構が推定され、高等植物と比較し特徴的な位置・立体選択性(9R)ならびに高い光学純度(>99%ee)を示すことが明らかとなった。そこで、これら研究成果をBioorganic & Medicinal Chemistryへ投稿した。 一方、得られた海藻精油を用い、海藻香気のヒトの脳波に及ぼす影響を精査した結果、海藻様の香りがリラクゼーション効果を有する可能性が見いだされたため、Japan Journal of Taste and Smell Researchへ投稿した。
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