研究概要 |
海藻揮発成分中には、脂肪酸からリポキシゲナーゼによるハイドロパーオキサイドの生成、引き続くハイドロパーオキサイドリアーゼを介する経路で生合成される化合物が認められるが、海藻におけるこれら一連の生合成経路の解明に関する報告例は少ない。代表者はこれまでに、海藻中の脂肪酸変換様式解明の一環として、海藻から粗酵素液を調製し、脂肪酸の添加実験により、相当するハイドロパーオキサイドの確認,構造決定ならびに生成物の同定を行い、短鎖,中鎖,ならびに長鎖アルデヒド生合成経路に関する有用な知見を得ている。他方、これらアルデヒド類以外に、過酸化脂肪酸を経由すると考えられる炭素数12,8の第二級アルコール類が海藻精油中に見出され、GC-MS分析ならびに有機化学的合成により、dictyoprolenol, neodictyoprolenol,および1-octen3-olであること同定した。そこで、これらアルコール類の前駆体の過酸化脂肪酸の簡易検出を目的とし、内在性の1-octen3-ol量の豊富なキノコを用いてモデル実験を試みた。まず、バッファー中でシイタケを摩砕し、濾過することにより粗酵素液を調製し、基質としてリノール酸を添加し、変換反応を実施した。生成物の確認をRP-, NP-HPLCおよびGC-MS分析を行った結果、10位に酸素添加が選択的に起こった過酸化脂肪酸である(10S)-HPODE(〜90%ee)が主に得られ、引き続く開裂反応により、(R)-1-octen-3-ol(〜90%ee)が増加することが明らかとなった。また、その他のキノコ類においても、前駆体の過酸化物ならびに生成物のアルコールの立体化学の相関が認められた。以上の結果より、1-octen3-ol生合成において、相当する(105)-ハイドロパーオキサイドを経由する機構が初めてシイタケから同定され、海藻における同様な生合成経路の解明に有用であることが示唆された。そこで、これら一連の三年間(平成14〜16年度)で得られた「海藻における脂質過酸化物由来の香気成分の化学的研究」の若手研究(B)の成果をRecent Research Developments in Phytochemistryへ総説として投稿した。
|