本研究では、海産無脊椎動物グミ(Cucumaria echinata)由来溶血性レクチンCEL-IIIおよび遺伝子工学的に作製されたCEL-III変異体について、さらに多くの生物(主に魚類)に対する生物活性を検討して、その作用メカニズムを解明することを目的として実験を行なった。CEL-IIIはN末端側の糖結合ドメインとC末端側の会合体-小孔形成ドメインの2つのドメインから構成されることが推察されているが、全長及びそれぞれのドメイン領域を欠損した各種変異体蛋白質を大腸菌、及び酵母の系を用いて発現、精製を試みた。まず、全長の組換体CEL-IIIは、大腸菌では発現精製に至らなかったが、酵母Pichia pastrisの系により発現精製系を確立できた。その赤血球に対する活性を検討した結果、凝集活性は野生型CEL-IIIと同等の活性を示したが、溶血活性は20%程度で、著しく活性が低下していた。現在、活性の高いCEL-IIIを発現する酵母を検索中である。次に、植物毒素リシンB鎖との相同性を示すN末端側2/3領域(1〜283残基目)のみからなるC末端欠損CEL-III変異体を大腸菌の系で発現精製し、赤血球に対する活性を検討した結果、それだけで糖結合活性および赤血球凝集活性を示したことから、このN末端側2/3領域が実際に糖結合ドメインとして機能することが明らかになった。しかし溶血活性は示さず、溶血活性へのC末端側領域の関与が示唆された。このN末端側2/3領域を酵母にて発現すると、菌体外分泌過程でプロテアーゼにより切断されて1〜147残基目からなるフラグメントとして分泌されたが、これは赤血球凝集活性は示さないが、糖結合活性を示すことからこの領域が最小糖結合ドメインであることが示唆された。つづいてCEL-IIIの殺魚活性の指標としての魚類を探索した結果、安価で入手できるゼブラフィッシュがヒラメと同程度の濃度(5μg/ml)で致死することを見い出した。今後、さらなるCEL-III変異体を作製するとともに、それらの変異体に関して殺魚活性を検討し、その作用メカニズムについての解明を試みる予定である。
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