本研究では、海産無脊椎動物グミ(Cucumaria echinata)由来溶血性レクチンCEL-IIIとCEL-IIII変異体を用いて、細胞および生物に対する活性を検討し、その作用メカニズムを解明することを目的として実験を行なった。これまでにCEL-IIIのN末端側2/3の糖結合ドメインCRD(1〜283残基目)のみからなる変異体蛋白質が弱い糖結合および赤血球凝集活性を保持することを示したが、今回新たにC末端領域から20残基ずつ欠損した変異体を作成しその活性について検討した。CRD312(C末端120残基欠損)、CRD332(同100残基)は、容易に大腸菌内で発現したが、CRD352(同80残基)、CRD372.(同60残基)の発現量は順次減少した。変異体を精製後、赤血球凝集活性を調べた結果、CRD312はCRDより強い赤血球凝集活性を保持していることが明らかになり、また、その活性は欠損が小さくなると増大し、CRD332とCRD352ではCEL-IIIとほぼ同等の活性を有していた。よって、C末端領域は会合体形成以外に、糖結合ドメインの構造安定化にも寄与していることが示唆された。つづいて、相同蛋白であるリシンの糖結合に関与する残基を参考にして、部位変異体を作製してCEL-IIIの糖結合残基の同定を試みた。その結果、Asp23、His37、Gln44の糖結合への関与が明らかになったがGln45の関与はほとんどないことが明らかになった。最近決定されたCEL-IIIの結晶構造から、上記残基以外にAsp43がCa^<2+>の糖結合部位への配位に重要であることが示唆された。つまり、CEL-IIIはリシンと類似したアミノ酸残基が糖結合に関与しているが、CEL-IIIが示す糖結合の際のCa^<2+>依存性はAsp43によることが大きいと推察された。最後に、ゼブラフィッシュを用いてCEL-IIIとその変異体の殺魚活性を検討した。その結果、CRDは殺魚活性を保持していないことが明らかになった。また、赤血球凝集活性を持つが溶血活性がないCEL-IIIオリゴマーも170μg/mlという高濃度でも殺魚活性を示さない(モノマーは6.0μg/1mlで殺魚活性を発揮する)ことから、溶血活性と殺魚活性は、お互い非常に関連することが明らかになった。
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