研究概要 |
ブタ卵子の体外受精時における多精子侵入率は極端に高く,その後の胚発生率の低下を引き起こす原因である。一方,卵管粘液中に含まれる糖タンパクが多精子侵入の抑制機序に関与することが報告されているものの,その詳細に関しては未だ不明な点が多い。また,精子細胞膜中に存在しヒアルロニダーゼ活性を有するPH-20は卵透明帯への結合にも関わり,受精時における非常に重要な精子側の因子である。そこで,本研究では,新規ヒアルロニダーゼ阻害剤(ChSAO)を用い,ブタ精子のヒアルロニダーゼ活性に対するChSAOの阻害効果を調べると共に,ブタ卵子の体外受精時におけるChSAOの精子侵入への影響を検討した。 コンドロイチン硫酸Aをヒアルロニダーゼで徹底水解することで得られた四糖のオリゴ糖であるChSAOにより,ブタ精子から粗抽出したヒアルロニダーゼ活性(5.0x10^6 sperm相当)は濃度依存的に阻害された。そして,100μg/ml ChSAOはヒアルロニダーゼ活性を完全に阻害した。次に,受精培地に添加した100μg/ml ChSAOは卵丘細胞卵子複合体への精子侵入率を有意に低下させたが,精子侵入が完全に阻害されることはなかった(42%)。一方,裸化卵では100μg/ml ChSAOによる精子侵入抑制効果は弱かったものの,多精子侵入率が対照区(53%)に比べて著しく減少した(26%)。さらに,ChSAOにより卵透明帯へ、結合精子数の有意な減少が観察された。 これらのことから,ChSAOはブタ精子のヒアルロニダーゼ活性を阻害し卵丘細胞層の通過と透明帯への結合を抑制することが明らかとなった。即ち,ChSAOは受精に関わる精子側因子(PH-20)に作用を及ぼしブタ卵子の多精子侵入の抑制に関与すると推察された。
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