研究概要 |
ブタ卵子の体外受精時における多精子侵入率は極端に高く,その後の胚発生率の低下を引き起こす原因の一つである。一方,卵管粘液中に含まれる糖タンパク質が多精子侵入の抑制機序に関与することが報告されているものの,'その詳細に関しては未だ不明な点が多い。また,精子細胞膜中に存在しヒアルロニダーゼ活性を有するPH-20は精子の卵透明帯への結合にもかかわり,受精時において非常に重要な精子側の因子である。しかし,最も受精の研究が進んでいるマウスにおいても,精子の卵子への侵入過程における精子ヒアルロニダーゼの生理学的作用については未だ不明な点が多い。そこで,本実験では,ヒアルロニダーゼ活性を抑制する作用を有するポリフェノール類を用い,マウスの受精機序に対するヒアルロニダーゼ阻害剤の影響を検討した。 ポリフェノール類(タンニン酸,アピゲニン,クエルセチン)の内,タンニン酸は濃度依存的にヒアルロニダーゼ活性を阻害し,15μg/mlタンニン酸は97%の阻害率を示した。この強いヒアルロニダーゼ阻害作用を示したタンニン酸処理は受精率を30%に抑制した(無処理区71%)。したがって,マウス精子の卵子への侵入過程においてヒアルロニダーゼ活性が関与していることが確認された。しかし,精子侵入時の卵丘細胞層の拡散をタンニン酸は抑制しなかった。一方,透明帯への結合精子数は,タンニン酸処理により72sperm/oocyteに有意に減少し(無処理区137sperm/ml),このことがタンニン酸により受精率が低下した原因と考えられた。 これらのことから,透明帯への精子結合機序に精子ヒアルロニダーゼ活性が関わっていると云った,これまでの見解とは異なる新たな可能性が推察された。そして,ブタ卵子の多精子侵入を抑制する方法として,ヒアルロニダーゼ阻害因子の利用が有効であると思われた。
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