本研究では、腸管平滑筋細胞におけるM2およびM3ムスカリン受容体サブタイプ間に存在する相互作用を明らかにし、ムスカリン受容体の新たな機能発現モデルを構築することを目的とした。各サブタイプのノックアウトマウスの到着が遅れたため、一部計画を変更したものの、研究はおおむね順調に進展した。得られた研究成果の概要は次の通りである。(1)M2サブタイプに連関した非選択的陽イオンチャネル(NSCC)の活性化には、M3サブタイプも同時に刺激されることが必要であるという仮説が考えられている。この仮説をさらに追求するため、各種G蛋白質抗体および情報伝達阻害薬を用いてNSCCに対する影響を検討した。その結果、M3受容体に連関したG蛋白質、イノシトール三リン酸、ジアシルグリセロールなど下流の情報伝達分子よりむしろ、M3自身から送られる何らかのシグナルがNSCCの活性化に必要であることが明らかになった。この結果を説明するためのモデルとして、M3受容体とM2受容体がヘテロダイマーを形成することによりNSCCの活性化を制御している可能性が考えられた。(2)3種のムスカリン受容体作動薬を用い、各作動薬で生じる収縮反応と収縮反応に対する各種受容体拮抗薬の影響、細胞内Ca濃度の変化、収縮蛋白系のCa感受性の変化および膜電位変化を比較・解析した結果、これらの作用が上述したM3-M2ヘテロダイマーモデルでよく説明できることを明らかにした。以上の成果は、2編の論文としてBritish Journal of Pharmacology誌に投稿中である。また、成果の一部は、Recent Research Developments in Physiologyに総説として公表した。
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