本研究の目的は、家禽で増殖できない野生水禽由来のインフルエンザウイルスがどのような仕組みで家禽体内での増殖能を獲得するかを分子レベルで明らかにすることである。 H14年度に実施した研究では、以下の成績を得た。 (1)当教室で分離された野生水禽由来のインフルエンザウイルスA/whistling swan/Shimane/499/83株(H5N3)(以下499株)及びその継代株でニワトリ体内での増殖が可能となった変異ウイルス24a株のゲノムRNAの全塩基配列を決定した。499株及び24a株のゲノムRNAは、PB2;2341塩基、PB1;2341塩基、PA;2233塩基、HA;1766塩基、NP;1565塩基、NA;1453塩基、M;1027塩基及びNS;890塩基で、全ての分節で同じ長さであった。これらの遺伝子がコードする10種類の蛋白質の推定アミノ酸配列を499株と24a株で比較すると、HAにおいて13カ所の置換がみられ、これは他の蛋白質に比べ圧倒的に多く、次いでNAの4カ所、PB2及びNS1の3カ所、NP及びM1の2カ所、PB1、PA及びM2の1カ所の順で、NS2にはアミノ酸置換はみられなかった。HAのアミノ酸置換のうち、240位はHA頭部に新たな糖鎖を付加するもので、ウイルスのレセプター結合能及び宿主域に変化をもたらす可能性が示唆された。 (2)(1)で明らかにされたアミノ酸変異のうちどれがウイルスの宿主域に変化をもたらしたかを直接明らかにするために、まず499株のリバースジェネティクスを確立した。リバースジェネティクスで作製された人工499株のin vitroでの性状を検討したところ、その抗原性及び増殖性において499株と同様であることが明かとなった。
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