B細胞初期分化においてpre-BCRを介したシグナルは、対立遺伝子排除、Dmu蛋白の選択的排除(Dmu選択)、増殖や成熟など様々な細胞反応を惹起する。我々はこれらの細胞反応に至るシグナル伝達におけるBASHおよびCD19の役割について、BASHノックアウトマウス(BKO)およびBASH/CD19ダブルノックアウトマウス(DKO)を用いて解析した。その結果、BKOに比べDKOの骨髄中では、pre-BCRを発現した大型プレB細胞がより多く認められ、B細胞分化はその段階で完全に停止していた。また、DH塩基配列の読み枠の解析によりDmu選択はこれらのマウスにおいて障害されていた。対照的にIgH遺伝子の対立遺伝子排除はいずれのマウスでも正常であった。これらの結果は、成熟・増殖を誘導するシグナルにおいてBASHとCD19は相補的に働くが、対立遺伝子排除にはいずれの分子も必須では無いことを示唆している。また、Dmu選択と対立遺伝子排除の制御にはそれぞれ独立したシグナル伝達経路が存在することが明らかとなった。更にそれぞれのマウスよりpre-B細胞株を樹立し、BASHとCD19の関わるシグナル伝達経路について解析した。その結果、Btkの恒常的なリン酸化はDKO特異的に欠損していた。またBKOおよびDKO双方の細胞株においてERKの恒常的な活性化は認められなかったがpre-BCR架橋によりわずかな活性化が認められた。対照的にJNKの活性化はpre-BCR架橋に関係無く全く認められなかった。以上により、pre-BCRシグナル伝達経路や細胞反応におけるCD19の相補的な役割が明らかとなった。
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