ウマヘルペスウイルス1型(EHV-1)の神経向性は他のヘルペスウイルスに比較して非常に弱いことが知られている。本研究は、脳継代によって作出したEHV-1神経馴化株(NHH1)と親株(HH1)を比較することにより、獲得された神経病原性の本態を解明することを目的とする。NHH1、HH1のマウスに対する神経侵襲性の差異を解析・比較するため、6日齢のBALB/cマウスにそれぞれのウイルスを腹腔内接種し、接種後0日から9日目まで経時的に全身諸臓器の病理学的検索を行った。NHH1接種マウスでは接種後1、2日目に脾臓、肺のマクロファージと大網脂肪細胞にウイルス抗原が検出されたが、HH1接種マウスではこれらの所見は認められなかった。また、NHH1接種マウスでは接種後1日目から3日目まで細胞随伴性ウイルス血症が検出されたのに対し、HH1接種マウスでは認められなかった。NHH1接種マウスでは接種後4日目に脳幹、脊髄の一部の血管内皮細胞と多数の血管周囲グリア細胞にウイルス抗原陽性像が観察され、接種後5日目以降にウイルス抗原陽性細胞数は増加した。一方、HH1接種マウスでは接種後4日目に脊髄の少数の神経細胞に神経細胞にウイルス抗原が認められたが、それ以外にウイルス抗原は検出されなかった。以上の結果から、NHH1は血行性にCNSへ侵入したことが示された。また、EHV-1の神経侵襲性は脳継代により増強し、それは末梢組織における増殖能に関連していることが示唆された。
|