ウマヘルペスウイルス1型(EHV-1)の神経向性は他のヘルペスウイルスに比較して非常に弱いことが知られているが、脳継代によって作出したEHV-1神経馴化株(NHH1)は親株(HH1)に比べて強い神経病原性を示す。脳継代による変異領域を同定する目的で、両ウイルス株のDNAを比較解析した。LA-PCR法によって13Kbに至るウイルスDNA断片を複数増幅し、RFLP解析を行ったが、両ウイルス間に差異は検出されなかった。平成14年度の解析により、NHH1はHH1に比べてより広範囲な組織向性を示すことが明らかとなっているため、細胞への吸着、侵入に関与するエンベロープ蛋白に変異が生じている可能性が考えられた。そこで、NHH1、HH1のgB遺伝子、gD遺伝子をそれぞれシークエンスしたが、両ウイルス株間でコードされるアミノ酸配列に相違は認められなかった。 平成14年度に行った解析により、NHH1、HH1の示す神経侵襲性の差異が脳血管内皮細胞への感染性によって一部規定される可能性が考えられた。また、馬のEHV-1脳脊髄炎においても血行性にCNSに到達したウイルスが脳血管内皮細胞に感染することが知られている。そこで、馬、マウスの大脳皮質より脳微小血管内皮細胞(BMEC)を分離、培養し、HH1株に対する感受性を検討した。その結果、馬BMECはEHV-1感受性であり、エンドサイトーシスによってウイルス取り込みが生じるのに対し、マウスBMECはEHV-1非感受性であり、ウイルスが細胞内にほとんど侵入しないことが明らかとなった。この結果はin vivoにおけるウイルス感受性の差異を再現するものであり、BMECは今後EHV-1の神経病原性を研究する上で、有用なモデル系であると考えられた。 以上に加え、EHV-1感染馬胎盤におけるウイルス遺伝子発現プロファイルを解析し、報告した。
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