犬の甲状腺機能低下症は甲状腺機能の低下により血中甲状腺ホルモン量の不足が生じ、非掻痒性両側対称性脱毛、色素沈着、運動不耐、重度の場合は意識の混濁、重度の貧血などを引き起こす。本症の病因として甲状腺の濾胞内コロイド成分であるサイログロブリン(Tg)に対する自己抗体(TgAA)および自己反応性T細胞の存在が重要視さており、それらはリンパ球性甲状腺炎を惹起して甲状腺の組織破壊を引き起こすと考えられている。本研究では本症の発症機序の解明を試みるとともに、その発症前診断法について検討した。1.犬TgAAおよび自己反応性T細胞の検出法を確立するために正常甲腺組織からTg蛋白質の単離、精製を行った結果、分子量約660kDaの蛋白質が得られた。2.1.で得られたTgを用いて甲状腺機能低下症犬および正常犬の血清中のTgAA抗体価をLISA法を用いて測定した結果、甲状腺機能低下症犬においては高い抗体価が観察されたことから本症罹患犬はTgに対する自己抗体を保有していることが示唆された。また、BrdUの取り込み量を指標として甲状腺機能低下症犬および正常犬の血中リンパ球幼若化試験を行ったところ、申状腺機能低下症犬においてTg刺激に対して強く反応したことから本症罹患犬はTgに対する自己反応性T細胞を保有している可能性が示唆された。3.正常犬甲状腺組織から抽出したTg mRNAの特に抗原性の高いといといわれるC末端の塩基配列を調べたところ、約2kbpが明らかとなり、人、マウス、ラット、牛の塩基配列と比較して約80%の相同性が認められた。 今後は附属家畜病院および外部獣医師との連携により症例血清あるいは血液を収集、検討するとともに犬Tg mRNAの全長塩基配列の解読を進める予定である。また、TgAAおよび自己反応性T細胞の抗原エピトープについての検討も並行して進めたい。
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