犬の甲状腺機能低下症は甲状腺機能の低下により血中の甲状腺ホルモン量の不足が生じ、非掻痒性両側対称性脱毛、色素沈着、運動不耐、重度の場合は意識の混濁、重度の貧血などを引き起こす。本症の病因として甲状腺の濾胞内コロイド成分であるサイログロブリン(Tg)に対する自己抗体(TgAA)および自己反応性T細胞の存在が重要視されており、それらはリンパ球性甲状腺炎を惹起して甲状腺の組織破壊を引き起こすと考えられている。本研究では本症の発症機序の解明を試みるとともに、その発症前診断法ついて検討した。a)正常犬甲状腺組織から抽出したmRNAからオリゴキャップ法を用いて完全長cDNAの作製を試み、イヌTg cDNAの全長塩基配列の解析を進めている。現在までに明らかになっているC末端の塩基配列は約2.3kbpであり、人、マウス、ラット、牛の塩基配列と比較して約80%の相同性が認められた。さらに、人、マウス、ラット、牛の同一領域に認められる塩基配列のうち18塩基対が欠落している可能性が示唆された。b)大阪府立大学附属家畜病院および外部協力病院に来院した甲状腺機能低下症の患犬から血液サンプルを採取、保存し、甲状腺関連のホルモン濃度などの臨床データおよびTgAA抗体価の測定を継続して行っている。 今後は、附属家畜病院および外部獣医師との連携による症例血清・血液の収集・検討を継続するとともにイヌTg cDNAの全長塩基配列の解析を進める。また、得られた塩基配列をもとにリコンビナント蛋白質の合成を行い、それらを用いたTgAAおよび自己反応性T細胞の抗原エピトープについての検討も並行して進めたい。
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