乳腺腫瘍の犬23症例について、治療前における末梢血単核球のヘルパーT細胞産生サイトカインのmRNA発現を検討した。各症例については、TNM分類を行い、乳腺腫瘍の存在する側の片側乳腺全摘出術を施し、病理組織学的診断を行った。病理組織学的診断では、16例が悪性乳腺混合腫瘍、7例が乳腺癌であった。健常犬8頭と術前の各症例よりに血液を採取し、単核球を分離した。分離した単核球よりtotal RNAを抽出し、RT-PCR法によりγ-インターフェロン(γ-IFN)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-6(IL-6)およびインターロイキン-10(IL-10)のmRNAの発現を検討し、健常犬と乳腺腫瘍犬のこれらサイトカインの発現率を比較した。その結果、悪性乳腺混合腫瘍と乳腺癌の症例は双方とも健常犬に比較して、IL-2 mRNAの発現率では優位に低値、IL-10 mRNAの発現率では優位に高値を示した。乳腺癌の症例では、さらに健常犬と比較してIL-6 mRNAの発現率においても優位に高値を示した。また、悪性乳腺混合腫瘍症例の末梢血単核球のサイトカインmRNAの発現率とTNM分類との関係において、腫瘍の大きさ(T)との関係は認められなかったが、リンパ節転移(N)によりγ-IFNならびにIL-6 mRNAの発現率が減少する傾向が認められた。以上の結果より、悪性乳腺混合腫瘍ならびに乳腺癌の症例では、細胞性免疫応答が低下しているものと推察された。また、悪性乳腺混合腫瘍の症例では、リンパ節転移は免疫応答に影響を与えるものと考えられた。 本年度の検討項目である乳腺腫瘍犬のプロジェステロン(PG)、エストロジェン(EG)の血中濃度、腫瘍組織におけるPG、EGレセプターの発現は現在検討中であり、来年度早々には結果が出る予定である。
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