細菌は外界の鉄濃度に応じて様々な蛋白の発現レベルを変化させている。その発現制御の中心的役割を担うのがFerric uptake regulator (Fur)であることが知られている。モラクセラ・ボビスのFur遺伝子のクローニングを行い、当菌の鉄応答機構を解明することを目的に以下の実験を行った。 1.Fur遺伝子のクローニング:多菌種のFurの間で保存されたアミノ酸配列をもとにプライマーを設計しPCR増幅を行ったところ、当菌の相同分子をコードする遺伝子の一部を得ることができた。これをプローブとしてゲノムライブラリーより全ORFを含む遺伝子断片を単離し、その塩基配列を決定した。その結果、モラクセラ・ボビスのFurはAcinetobacter calcoaceticusのFurとアミノ酸レベルで72.1%の相同性を示すことが明らかとなった。 2.Furの鉄応答性の検討:ウェスタンブロット解析によりモラクセラ・ボビスのFurの発現レベルは環境中の鉄濃度に応じて変化することが示され、Furの転写はFur自身により制御されている可能性が示唆された。そこでゲルシフトアッセイによりFurのFurプロモーター領域との結合性を調べたところ、結合を示すバンドのシフトが観察された。 3.外膜蛋白の鉄応答性:鉄濃度を変化させ、菌体外膜蛋白をSDS-PAGEにより調べたところ、79kDaの外膜蛋白の発現量が培養液中の鉄濃度の上昇に伴い著しく減少することが分かった。 4.Furによる外膜蛋白の発現制御:Fur遺伝子の変異を惹起する目的でマンガン変異株を作製しその外膜蛋白を調べたところ、それらの変異株では79kDaの外膜蛋白の鉄応答性が喪失されていることが明らかとなり、Fur遺伝子の変異も検出されたことから、この外膜蛋白のFurによる制御が示唆された。
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