研究概要 |
アブラナ科植物の自家不和合性では100以上のSハプロタイプが存在すると言われているが、その中には2つのハプロタイプ間で優劣の関係が生じる組み合わせが複数存在する。筆者はこれまでの研究で花粉の優劣性は劣性を示すSハプロタイプの花粉側S決定因子SP11の発現が優性を示すSハプロタイプとのヘテロ体で抑制されることによって決まることを明らかにしてきたが、劣性SP11の発現がどのようにして抑制されるのか不明である。今回、bisulfite法を用いて優性/劣性ヘテロおよび劣性ホモ株の葉、花弁、柱頭、未熟蕾、花粉、葯タペート組織のゲノムDNAのメチル化レベルを詳細に比較し、優性/劣性ヘテロ株の葯タペート組織由来のゲノムで特異的に劣性SP11遺伝子のメチル化レベルが高くなっていることを明らかにした。また劣性SP11遺伝子のメチル化は発現制御に関わる開始コドン上流約90〜150bpに集中していた。さらに優性/劣性ヘテロ株の劣性SP11遺伝子周辺領域のゲノムDNAのメチル化レベルを調べたところ、劣性SP11遺伝子上流約2kbに位置するORF(SAN遺伝子)のプロモーター領域のメチル化レベルが高くなっていたが、約5kb上流にある雌ずい側S決定因子SRK遺伝子周辺では優劣性に特異的なメチル化レベルの上昇は見られなかった。なお上記メチルレベルの上昇に伴い、優性/劣性ヘテロ株における劣性SP11遺伝子の発現は1/65000以下に、SAN遺伝子の発現は劣性ホモ株に比べて約1/30に抑制されていた。 さらに交配実験から劣性SP11遺伝子の発現抑制は世代を超えて見られず、またmaternal, paternalな制御は受けていないことを明らかにした。本研究結果は劣性SP11遺伝子の発現抑制がタペート組織および優劣性特異的に劣性SP11遺伝子の転写制御領域がde novoメチル化されることによることを示唆している。またメチル化領域がSP11遺伝子の周辺にも及んでいることから当該領域がヘテロクロマチン化されている可能性も考えられる。
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