研究概要 |
昨年までの研究において肥満細胞をアラキドン酸およびアラキドン酸アナログであるEPAやミード酸の存在下で培養し、抗原抗体反応により刺激を加えたところ、アラキドン酸を添加して培養した細胞においてのみ、添加濃度に依存してエイコサノイド(PGD_2)の産生、脱顆粒やサイトカイン(TNF-α)の産生量が上昇すること明らかにした。この現象は、細胞表面に存在する高親和性IgE受容体を介した細胞内情報伝達に関与するZAP-70/Syk FamilyプロテインキナーゼであるSykの発現およびリン酸化の亢進および、カルシウムの細胞内への流入増加によることが確認され、膜脂肪酸組成が肥満細胞におけるチロシンリン酸化を介した細胞内情報伝達に強く関与することが明らかとなった。そこで、類似の構造を持った脂肪酸によりアラキドン酸取り込みを調節することによって細胞の機能をコントロールできる可能性が示されたことより、新たなアラキドン酸アナログとして、アラキドン酸のΔ8位の二重結合が欠損した5,11,14-20:3をアラキドン酸生産菌MortierellaalpinaのΔ6不飽和化酵素欠損変異株を用いて調製し、細胞機能へ与える影響について評価した。5,11,14-20:3は細胞膜への取り込みが、これまでに検討を行ったアラキドン酸、EPA、DGLA、ミード酸に比べ極端に低く、アラキドン酸との膜中への取り込みにおける競合は認められなかった。しかし、アラキドン酸による脱顆粒亢進を効果的に抑制する傾向が認められたことより、膜中のアラキドン酸量の抑制以外の別の機序で脱顆粒亢進を抑制していることが考えられた。 一方、より効果的に細胞内のアラキドン酸レベルを制御することを目的として、部分的に構造を変化させた脂肪酸の合成についても更に検討を行った。α-リノレン酸の部分水添反応により生ずるモノエン酸を硝酸-亜硝酸系を用いて二重結合を異性化し、トランス型モノエン酸混合物(Δ9、Δ12およびΔ15-18:1)を調製した。トランス型モノエン酸混合物を基質としてMortierella alpinaによるアラキドン酸生合成経路を利用した微生物変換により、5c,8c,11c,14t-20:4、5c,8c,11c,14c,17t-20:5を合成した。
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