研究概要 |
申請者は、循環障害なしに内耳組織に適用できる新しい固定手技を開発した(14年度)。細胞質およびミトコンドリアの電子密度・体積の変化を形態計測法により検証したところ、新たに開発した固定法により、辺縁細胞の暗細胞化が抑制された。反対に虚血処理を積極的に与えた標本では、従来どおり暗細胞化がおこり、さらにミトコンドリアの膨化も誘発されていることがわかった。以上の実験結果は、極めて短時間(3分以内)の虚血処理が内耳血管条辺縁細胞に劇的な細胞内変化を引き起こすことを示している。特に、辺縁細胞の体積については虚血処理により、明らかに収縮傾向が認められ,辺縁・中間・基底細胞からなる血管条における細胞体積調節に関わるイオン輸送機構を明らかにしなければならない。 本年度では、暗細胞化に関わる細胞レベルのイオン輸送機構のメカニズムに焦点をしぼり、細胞体積変化に着目した解析を行った。その結果、血管条内での細胞体積変化に寄与する重要な膜輸送体として、辺縁細胞の基底側膜側に発現しているNa^+-K^+-ATPaseや共輸送体のNa^+-K^+-2Cl^- cotransporterおよびCl^-チャネルが、辺縁細胞の体積変化だけではなくintra-strial sapceの体積変化にも関与していることが判明した。さらに内リンパ液の体積調節異常に起因して発症するメニエル病に関連して、水分子の輸送に関係する水チャネルのアクアポリンの血管条内での発現を検討したところ、中間細胞の細胞膜にアクアポリンファミリーの1つであるAQP1の発現をRT-PCRと免疫組織化学により確認した。以上の結果から、血管条においてはいくつかの膜輸送分子が連携してその体積調節にかかわっており、その調節系の一部のバランスが崩れることにより、様々な病態が顕在化してくるものと考えられた。今後は本研究で明らかとなった個々の機能分子が血管条全体としてどのように調節されて特定のイオンや水分子の輸送に関わっているのかを明らかにする必要がある。
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