1.昨年度までに、上皮細胞におけるDLGとAPCの相関関係を探るために上皮細胞株MDCK細胞における両タンパク質の細胞内局在を検討し、極性を形成しない培養条件では、細胞の突起部先端で両者が共存していることを明らかにし、この結果をHistochemistry and Cell Biologyに発表した。 2.DLG蛋白質の、生体内における機能を究明する目的で、DLG null mutantマウスの発生段階の泌尿器の形態形成過程を観察した。具体的には、幼弱な組織構造を同定・可視化するため、発生期の泌尿器を摘出し、泌尿器細胞のマーカーであるPax2および上皮細胞の分化マーカーであるcytokeratinのホールマウント免疫染色を行い、蛍光像を観察した。各遺伝型、各発生段階についてサンプルを集め各種計測値を統計解析することにより以下の結果を得た。(1)DLG(-/-)マウスの腎臓は有意な低形成を呈するが異形成は認められない。(2)DLG(-/-)マウスの尿管は正常マウスと同じ高さで中腎管から出芽するが、その後共通腎管(尿管分岐部より下部の中腎管部分)の短縮および尿管開口部の下降が正常に進行しないために出生時の尿管異所開口(尿管が膀胱でなく尿道に開口する)が引き起こされ、その結果として巨大尿管や水腎症が発症する。(3)DLG(-/-)マウスの尿管では胎生11.5日頃までに後腎領域外での異常分岐が起こることがあり、その場合は出生時の分岐尿管(重複尿管)として観察される。(4)DLG(-/-)マウスの尿管は伸長開始直後(胎生12.5日)から伸長不全となり、その後の胎生期を通じて尿管の長さが正常マウスよりも有意に短い。これらの結果から、DLGが中腎管や尿管を構成する上皮細胞の増殖、細胞移動、・細胞死などの制御に関わっている可能性が考えられる。
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