われわれは多種の内分泌細胞を特異的に認識する抗体を発見し、この抗原タンパク質をMulti-Endocrine Cellar Antigen(MECA)便宜上命名し、研究を進めている。この抗体は19アミノ酸のベプチドを抗原としているが、当初の予想と異なり、抗体のロットによって認識される細胞に差異があることがわかってきた。下垂体前葉のACTH細胞、TSH細胞、FSH細胞、視床下部の視索上核と室傍核のニューロン、副腎の髄質細胞、膵臓ラ氏島の周辺部の細胞などがロットごとに様々な組み合わせで認識されることが確認された。よってMECAは複数の分子である可能性がでてきた。 1.イムノスクリーニング、および特異的抗体による目的クローンの探索 MECA抗体のうち、E232とF248の2種類のロットを用いて、ラット視床下部のcDNAライブラリーからイムノスクリーニングをおこない、紅50種のクローンを得た。このうち、タンパク質のコード領域を含んでいてMECAの候補となり得るものをいくつか選択した。これらからリコンビナント・タンパク質または合成ペプチドを設計してウサギ抗体を作製し、ラット臓器の切片で免疫染色をおこない、内分泌細胞に特異的なものを探索した。 2.新規のHECT型E3ユビキチンリガーゼの同定 この過程において、興味深いクローンが得られた。これは約300アミノ酸をコードするcDNA断片であり、データベースを検索したところ、ゼブラフィッシュの約2600アミノ酸からなるタンパク質のホモログであった。このタンパク質はC末端にHECTドメインをもち、E3ユビキチンリガーゼの一種と予想された。ペプチド抗体による免疫染色では、視床下部の視索上核と室傍核、また下垂体後葉に強いシグナルが見られ、脳の他の部位をはじめ、肝臓、腎臓、膵臓、副腎などの臓器ではシグナルは見られなかった。視床下部のmagnocellular neuronに特異的に存在することから、このタンパク置は神経内分泌におけるなんらかのステップに関与していると考えられる。
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