生物毒であるグラヤノトキシン(GTX)は電位依存性Naチャネルに特異的に結合し、その活性化の電位依存性を過分極方向へシフトさせ、かつ不活性化を取り除く作用を持つ。このため、GTXとNaチャネルとの関係を調べる事でチャネルのゲート機構についての情報を得る事ができる。 以前の研究より申請者らは、この毒がラット骨格筋のNaチャネルにおいて強い感受性を示すのに対し、心筋のNaチャネルにおいてはその感受性が有意に低いことを明らかにした。また、その感受性の差を利用してこれら2種のアイソフォーム間でキメラを作成することで、GTXの結合部位の探索を試みた。その結果、感受性の差はNaチャネルのドメイン(D)1セグメント(S)6及びD1S4-S5細胞内リンカーに位置する2つのアミノ酸に起因することがわかった。更に、これらの領域内のアミノ酸をAla並びにLys走査置換によって毒の感受性を調べた結果、いくつかの箇所でGTXの感受性が著しく低下することが判明し、GTXの受容体がチャネルのすべて(4つ)のDにわたって構成されていることが明らかとなった。本研究においては、申請者らが独自に開発した新たな測定法に基づいて、Naチャネルに対するGTXの結合速度・解離速度定数を算出し、GTX感受性への影響をこれまで明らかとなっている感受性に関わる重要な部位のいくつかの変異体を用いて再検討した。その結果、チャネルの部位や置換するアミノ酸によって、結合速度・解離速度定数が独立に影響を受け、その中でもD4S6のF1579は側鎖の小さいアミノ酸に置換すると結合速度・解離速度定数の両者が著しく上昇するが、親和性は比較的変化がなかった。対照的にD4S6のY1586では、疎水性あるいは芳香環を持つアミノ酸以外のアミノ酸に置換すると解離速度定数のみが著しく上昇し、その結果親和性は有意に低下することがわかった。
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