カリウドバチ毒のPMTX並びに植物毒のグラヤノトキシン(GTX)は電位依存性Naチャネルに特異的に結合し、両者は共にその不活性化の過程を取り除く作用を持ち、また、後者は、チャネルの活性化の電位依存性を過分極方向へシフトさせる効果も持つ。このため、両毒とNaチャネルとの関係を調べることでチャネルのゲート機構についての情報を得ることができる。 申請者らは、以前の研究より、PMTXがラット脳II型のNaチャネルに特異的に作用することを報告した。今回はこの結果に基づいてPMTX誘導体であるp7を合成し、この誘導体が同じく脳II型のNaチャネルに特異的に作用し、しかもNaイオンの透過を抑制するといった全く別の機能を持つことを明らかにした。更には、この誘導体がドメイン3のPループに結合することによって、Na電流を遮断することを明らかにした。以上のことより、本研究において合成されたこの誘導体が、脳虚血時等の神経保護薬として臨床応用出来ることが示唆された。 一方、GTXにおいては、この毒の受容体がラット骨格筋のNaチャネルにおいてすべてのドメイン(4つ)にわたって構成されていることを明らかにした。更に、本研究において独自に開発した新たな測定法に基づいて、Naチャネルに対するGTXの結合速度定数・解離速度定数を算出し、GTX感受性への影響をこれまで明らかとなっている感受性に関わる重要な部位のいくつかの変異体を用いて再検討を行った。その結果、チャネルの部位や置換するアミノ酸によって、結合速度定数・解離速度定数が独立に影響を受け、その中でも特に、ドメイン1セグメント6のL437、ドメイン3セグメント6のS1276、ドメイン4セグメント6のY1586といったアミノ酸が、この毒の受容体の本質を担っていることを明らかとした。
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