これまでに、マウスの末梢に投与したリポポリサッカライド(LPS)によって中枢神経系(CNS)の青斑核(LC)におけるノルエピネフリン(NE)代謝回転が亢進するメカニズムを明らかにした。しかしながら、血液脳関門を通過しないLPSの刺激がどのようにCNSに伝達され、LCにおけるGTPシクロヒドロラーゼI(GCH)の発現量が上昇するかについては解明されていない。末梢でのLPS投与により、視床下部ではcorticotropin-releasing factor(CRF)が分泌されると報告されている。視床下部からLCには軸索が伸長していること、CRFの投与によりNE神経細胞が活性化されること、ストレスにより活性化されるNE神経細胞においてCRFの含有量が増加することから、CRFがLPSのシグナルを視床下部からLCに伝達していると推測される。そこで、LPS投与によるGCHの発現上昇にCRFが関係があるかどうかを検討した。 LPS感受性のマウス(C3H/HeN)にCRF受容体type Iアンタゴニストを前投与し、その後LPSを投与した。LPS投与4時間後に脳を摘出し、青斑核を切り出した。total RNAを抽出し、常法に従ってcDNAを合成した。quantitative real-time PCRで、GCH mRNAの発現量を測定した結果、CRF受容体type Iアンタゴニストの前投与により、LPS投与によるGCH mRNA発現量の増加に変化は認められなかった。すなわち、末梢でのLPS投与後のLCにおけるNE代謝回転の亢進に、視床下部のCRF増加は関与していないことが明らかになった。 LPS投与後のGCHおよびチロシン水酸化酵素のmRNAの発現量の変化については、Neuroscience誌に掲載された。また、北米神経科学会、日本神経化学会、日本生理学会において発表した。 現在、LPS投与後の転写因子および炎症性サイトカインに焦点を絞ってメカニズムの解明を試みている。
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