インスリンの分泌不全は、我国における糖尿病の一つの主徴である。近年膵島においても開口放出への関与が推定される多数の蛋白分子が同定されてきたがその機能は明らかではない。そこで、インスリン開口放出の素過程が定量的に計測できる2光子励起法を用いて、開口放出現象と蛋白の動態を直接関連づけて観測する実験系の確立を目指して準備を進めてきた。膜融合に関わるSNARE分子のうち、インスリン顆粒膜に存在するVAMP-2と細胞膜に存在するSNAP25のN末に、GFPの変異体であるEYFPとECFPをそれぞれ結合したプラスミドベクターを構築した。そして、アデノウィルスベクターへ組み込みマウス膵島への発現実験を開始した。2光子励起断層画像法で、発現状況を観察したところ、最外層優位に、従来の導入方法より多くの細胞で発現していることを確認した。現在もなお、感染条件を検討中であるが、SNAP25に関しては、細胞膜への局在傾向が認められている。VAMP2に関しては、インスリン顆粒やライソゾームと思われる点状像が認められる。この膵島を、水溶性蛍光色素液で環流しながら、高濃度グルコースで分泌刺激を与えたところ、インスリン開口放出像が検出された。開口放出のキネティクスや時間経過、空間分布は、非発現膵島と優位差はない。現在、CFPやYFPと蛍光スペクトルの重なりが少なく、かつ、同一の波長で2光子励起できるような色素を複数試用して、観察条件の最適化を図っている。融合細孔の形成前に限局したシグナルを同定しておりその本態の究明を進めている。
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