研究概要 |
運動時の循環調節に関与する中枢性循環制御(central command)および反射性循環制御(exercise pressor reflex)が血圧反射特性変調機構において,どのような役割を果たすのかについて明らかにすることを目的とした.そのため無麻酔除脳ネコ(上丘前-乳頭体吻側部レベルで除脳)を用いて,心拍数,動脈血圧を同時記録し,血圧情報を中枢に送る大動脈神経の直接電気刺激によって得られる血圧反射性徐脈および降圧反応を安静時・自発的骨格筋収縮時・脛骨神経の電気刺激による誘発的骨格筋収縮時・下腿三頭筋の他動的ストレッチ時の4条件下で比較した. 結果として,自発収縮開始時に血圧反射性徐脈は安静時に比べ45%抑制された.しかし誘発収縮および他動的ストレッチ時において,自発収縮開始時にみられた血圧反射性徐脈の抑制効果は出現しなかった.一方で大動脈神経刺激にともなう降圧反応は安静時・自発収縮時・誘発収縮時・他動的ストレッチ時のどの条件下においても同レベルまで観察された.この結果は,自発収縮時に発生する中枢性コマンドが脳幹内で動脈血圧反射特性を変調させることを示唆する.次に,前述した心拍成分の血圧反射特性変調効果における中枢内一酸化窒素(NO)の役割を明らかにするために,NO合成阻害剤(L-NAME)の脳室内投与前後データを比較した.その結果,L-NAME投与前にみられた血圧反射性徐脈の抑制効果は20%まで回復した. 本研究は自発収縮時に発生する高位中枢からのcentral commandが心拍成分に対する血圧反射効果を抑制させることを明らかにした.さらにこの抑制効果に対して,骨格筋の機械受容器および代謝受容器から起こるexercise pressor reflexは関与しない.さらにcentral commandによる動脈血圧反射特性変調において中枢内NOの関与が示唆された.
|