暑熱環境下では涼しい環境下に比べて、起立時に血圧の低下が起こりやすく、起立耐性は低下する。この起立耐性の低下は暑熱下労働中の事故の発生を増加させるので、その低下のメカニズムの解明と対策が要求される。動脈圧反射機能は起立時に動脈圧を正常な範囲内に維持するために必要不可欠な機能である。これまでの研究において、暑熱下で起立耐性が低下しやすい者は、全身加温中に心拍数(HR)の動脈圧反射感受性が低下することを明らかにし、その感受性の変化が暑熱下での起立耐性の決定要因の1つであると考えられた。暑熱下での起立耐性を改善するための1つの手段は、暑熱環境に生体を順応させることであると考えられる。そこで平成15年度には、全身加温時の起立耐性とHRの動脈圧反射反応に及ぼす短期暑熱順化の影響を検討した。健康な成人10名を被検者として、6日間の高温下(36℃)運動トレーニング(運動-暑熱順化プログラム)を行った。その運動-暑熱順化プログラムの前後において、全身加温中のHRの動脈圧反射機能や起立耐性を評価した。全身加温は温水循環スーツを用いて行った。起立耐性テストとして75°のヘッドアップティルト(HUT)を6分間行った。HRの動脈圧反射感受性は自然な血圧と心拍の変動からシークエンス法を用いて評価した。加温中の平均HUT時間は、暑熱順化の前(241±33秒)と後(283±24秒)とで有意に異ならなかった。正常体温時および加温中のHRの血圧反射感受性は暑熱順化によって有意に変化しなかった。発汗および皮膚血管拡張の閾値体温は、暑熱順化によって有意に低下し、その結果同一体温における発汗量と皮膚血管拡張は増大した。今年度の研究結果から、短期暑熱順化によってHRの自発的な血圧反射反応性は変化しないが、熱放散反応が増大することが示された。
|