研究概要 |
本年度は,トレッドミル歩行運動が海馬局所血流に及ぽす効果と,その反応への脳内コリン作動性神経の関与について検討した. 1.トレッドミル歩行運動が海馬局所血流を増加させることを明らかにした. ハロセン麻酔下で,レーザードップラー血流計のプローブを海馬に刺入してプローブを頭部に固定する手術,および血圧測定のために尾動脈へのカテーテル挿入手術を行なった.ラットの意識が回復した後に,ラットにキャストを着せてトレッドミル上でゆっくりと歩行させた. 歩行(4cm/s)を30秒間行なうと,歩行開始後2-3秒以内にすばやく海馬血流が増加し始めた.海馬血流は歩行中に最大約7%増加し,歩行終了後約1分かけて徐々に元のレベルに回復した.血圧は歩行中に軽度上昇し(約5%),歩行終了後直ちに回復した. 2.歩行時の海馬局所血流増加に脳内コリン作動性神経の関与することを明らかにした. (1)海馬アセチルコリン(ACh)放出量:マイクロダイアリシス法により海馬灌流液を3分毎に採取し,HPLC-ECDでACh量を測定した.海馬ACh放出量は,3分間の歩行中に約2倍に増加し,歩行終了後徐々に回復した. (2)ニコチン性ACh受容体の関与:歩行時の海馬血流増加反応は,血液脳関門を通過しないニコチン性受容体遮断薬(ヘキサメソニウム,20mg/kg, i.v.)では影響を受けないが,血液脳関門を通過するニコチン性受容体遮断薬(メカミルアミン,2mg/kg, i.v.)で減弱した.血液脳関門を通過するムスカリン性受容体遮断薬(アトロピン,0.5mg/kg, i.v.)では影響を受けなかった. (3)一酸化窒素(NO)の関与:歩行時の海馬血流増加反応は,NO合成酵素阻害薬(L-NAME,0.3-3mg/kg, i.v.)で減弱し,NO合成の基質(L-Arg,300mg/kg)で回復した. 以上の結果から,歩行時に海馬血流が増加すること,この血流増加には脳内コリン作動性血管拡張系が関与することが明らかとなった.
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