細胞の癌化の原因の一つとして、ミオシンなどのモーター分子の機能異常が挙げられる。I型ミオシンは細胞膜構成分子の輸送やアクチン細胞骨格再編成を制御していると考えられている。私は昨年度までに酵母I型ミオシンに結合する新規タンパク質Mti1(Myosin-tail-interacting protein 1)を同定し、Mti1がBni1、Sla2と遺伝学的相互作用を示すことを見出した。Bni1はフォルミンファミリーの蛋白質で、低分子量GTP結合蛋白質Rhoファミリーの標的蛋白質として、アクチンフィラメントの形成に関与している。Sla2はヒトHuntingtin-interacting Protein 1(Hip1)のホモログで、アクチンフィラメント架橋蛋白質である。bni1 sla2二重変異株を作製したところ、この二重変異株が温度感受性増殖を示すことを見出した。また、bni1 sla2二重変異株ではF-アクチンのターンオーバーの低下が認められた。したがって、Bni1およびSla2が細胞内の様々なF-アクチン構造体の形成量のバランス調整に関与していると考えられた(投稿準備中)。さらに、bni1 sla2二重変異株の温度感受性増殖を多コピーで抑圧する遺伝子を探索したところ、End3を同定することができた。End3は、培養細胞のトランスフォーメーション活性を持っているヒトEps15のホモログである。したがって、Bni1・Sla2がEnd3と協調して、細胞のトランスフォーメーションに関与している可能性が考えられた。得られた結果の生理的意義を解明することにより、細胞の癌化に関与しているアクチン細胞骨格再編成の分子メカニズムを明らかにできると考えている。以上のように、平成15年度の研究計画はほぼ達成されたと考えられる。
|