新規Rap1/2特異的グアニンヌクレオチド交換促進蛋白質(GEF)RA-GEF-2のRas-associating domain (RAD)に結合するRas/Rap1ホモログであるM-Ras(1-178アミノ酸)を大腸菌で大量発現し、液層クロマトグラフィー(FPLC)で分離・精製した。得られた高純度の蛋白溶液を用い蒸気拡散法で結晶化を行ったところ、0.05x0.2x0.005mmの結晶を得た。この結晶を用いてSpring-8(八木博士との共同研究)にてX線回折実験を行ったところ、分解能1.96オングストロームの鮮明な回折斑を得た。得られた情報をもとに空間群、格子定数を計算した結果、H-Rasと類似のパッキングが示唆されたので、H-Rasのデータをもとに分子置換法を用いて位相を決定した。求められた位相をもとに電子密度の計算を行い、得られた電子密度をコンピュータグラフィックスを利用して表示し、分子モデルを作成した。完成した分子モデルから、今回得られた結晶はM-Ras(1-178)-GDP複合体であることが確認された。構築された分子モデルから、M-Ras-GDPはH-Rasと極めて類似した構造であることが分かった。特に、エフェクターとの結合上、重要とされるswitch I領域はH-Rasのそれと完全に合致した。しかし、もう一つの結合領域switch IIはH-Rasより短く、ループ状のかなり自由度の高い構造(H-Rasの場合)であるところに、短いヘリックス構造を含んでいた。以上の結果より、H-RasとM-Rasがエフェクターを認識する際の違いはこのswitch IIの構造の違いを反影している可能性が示唆された。現在、活性型M-Ras-GTP、エフェクターであるRA-GEF2のRADとM-Ras-GTPの複合体についても結晶化を行っている。
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