新規Rap1/2特異的グアニンヌクレオチド交換促進蛋白質GEF)RA-GEF-2のRas/Rap-associating domain (RAD)に結合するRas/RapホモログであるM-Rasの高次構造解析を行った。活性型(GTP結合型)、不活性型(GDP結合型)のM-Rasの結晶化を行い、Spring-8でX線回折実験を行い分子構造を決定した。不活性型のM-Rasは全体としてH-Rasと極めて類似した構造をとっていた。一方、活性型M-Rasでは、標的蛋白の認識において重要な領域と考えられるswitch1が、H-Ras、Rapに比べて極めて大きな構造変化をしていた。M-RasはH-Rasとは異なる標的蛋白を有することがこれまでに示唆されているが、今回の結果より標的蛋白の認識の違いは活性型におけるswitch1の構造の違いを反映している可能性が強く示唆された。一方、Rasのswitch2はGTPase activating protein(GAP)との相互作用及び内因性のGTPase活性に重要な領域だと考えられている。活性型のM-Rasにおいてswitch2内のループ構造をとると考えられる部分の電子密度は一部見えず構造全体を明らかにすることが出来なかったが、switch2に含まれるα2ヘリックスの位置はH-RasやRapとは明らかに異なっていた。このことは、M-Rasが他のRas、Rapとは異なるGAPと相互作用する可能性を示唆していた。また、我々はM-Rasの内因性のGTPase活性がH-Rasのそれと比較して極めて高いことをin vitroで確認した。活性型Rasの内因性GTPase活性の高さは、これまでの構造解析によりswitch2の自由度の高さに比例すると考えられている。今回我々は活性型M-Rasのswich2の構造全体を明らかにすることが出来なかったが、これはM-Rasのswitch2の自由度が極めて高くGTPase活性の高さを反映している結果と考えられる。
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