我々はChlamydia pneumoniaeと由来臓器の異なる3つのヒト培養細胞による組み合わせでヒトDNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現変化を解析した。その結果、3種の細胞で共通して発現が上昇した遺伝子が約80個あり、逆に共通して減少したものが約40個あった。クラスタリング解析の結果では、細胞に因らない経時変化よりも細胞独自の変化が強いことがわかった。 感染細胞に共通して発現低下した遺伝子にはactinやtubulinが含まれ、クラミジア感染によって細胞内骨格の異常が想像された。またMHC class Iの発現が低下していたが、これは他研究施設からの報告と一致した。クラミジア増殖中に感染細胞はそのアポトーシスが抑制されるが、その原因と考えられるアポトーシスに関する遺伝子が今回の解析から幾つかみつかった。現在これらの発現変化を定量的RT-PCRなどによって解析中である。 NF-kBはアポトーシスに関与する重要な転写因子のひとつである。C. pneumoniae感染ではNF-kBが活性化し、これによってCOX-2が誘導され、PGE_2が上昇することがわかった。さらに我々は、アスピリンがNF-kBの抑制によって抗炎症作用を持つだけでなく、高濃度ではトリプトファンの枯渇による抗クラミジア効果を持つことを明らかにした(J Med Microbiol (in press))。 クラミジアのIncタンパク質ファミリーは封入体膜に局在するタンパク質だが、その機能は未知である。Incタンパク質間のアミノ酸配列の相同性は非常に低いが疎水性プロファイルには類似点がある。コンピュータ上で疎水性プロファイルによるORFの検索を行った結果、C. pneumoniae J138のゲノムから90の、またC. trachomatis serovar Dからは36のORFが同定された。クラミジア以外のゲノムには同様の疎水性プロファイルを持つORFがほとんどなかったことから、Incファミリーがクラミジアに特異的であることがわかった。また比較ゲノム学的解析から、Incファミリーは重複と多様化によってクラミジアゲノム中に多くのparalogueとorthologueを生じたことがわかった(DNA Research (2003))。 さらに封入体膜遺伝子IncA2をHeLa細胞に導入・発現させたところ、IncA2の局在はミトコンドリアに一致することがわかった。同遺伝子導入細胞にstaurosporineやTNF-αでアポトーシスを誘導するとアポトーシスを起こしやすいことがわかった。現在このメカニズムを解析中である。
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