外科的に切除された最大径4cm以下の肺腺がん66症例を、がんの病理組織学的所見により、第1〜4群(第1群:間質浸潤のない細気管支肺胞上皮がん、第2群:間質浸潤を伴う細気管支肺胞上皮がん、第3群:低分化腺がん、第4群:管状ないし乳頭状腺がん)に分類したところ、その術後5年生存率は、第1群が100%であるのに対し、第2群が53%、第3群が48%、第4群が39%であった。この結果より、第1群は初期がん、第2〜4群は進行がんとみなすことができた。これらの症例の肺切除材料より作製されたがん部と非がん部のホルマリン固定パラフィン包埋ブロックから、それぞれ厚さ10μmの切片6枚を薄切し、これをproteinase Kで処理し、炭粉を抽出した。抽出した炭粉をnitrocellulose membraneにdot blotし、blotされた炭粉量を吸光度で定量化した。肺腺がん各群の炭粉沈着量(平均値±標準偏差)は、第1群が0.769±0.145、.第2群が1.158±0.121、第3群が1.827±0.384、第4群が0.636±0.228であり、第1、2、3群に関しては、この順に炭粉沈着量が上昇する傾向にあった。特に、第3群、および第2・3群を1群とした場合(1.269±0.123)の炭粉沈着量は、第1群より有意に高かった(P<0.05)。上記肺腺がんの組織所見と術後生存率の関係より、第1群が初期がん、第2・3群が進行がんと考えられるので、炭粉沈着量の多い肺、すなわち、喫煙者や大気中の粉塵を多量に吸入している者の肺では、肺腺がんの進行が促進される可能性が示唆された。
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