[背景・目的]前年度の研究において、外科的に切除された肺を用い、肺の炭粉沈着量と肺腺がんとの関連性について検討したところ、組織所見上進行がんと考えられる肺腺がんでは、初期がんと考えられるものより、肺の炭粉沈着量が多いことが明らかとなった。この結果より、タバコや大気中の粉塵に含まれる成分が肺腺がんの悪性化に影響している可能性が示唆された。今年度は、この結果を踏まえ、喀痰を用いた新たな肺がんの診断法を確立するために、喀痰中の炭粉量やDNAメチル化を指標とした肺がん発生高危険群選別の可能性について検討した。[材料・方法]2002年筑波大学附属病院病理部にて細胞診断を行った210例を対象とした。細胞診標本作製後、余った喀痰より炭粉とDNAを抽出した。炭粉はニトロセルロース膜にドットブロットして、この吸光度を測定し、炭粉量とした。DNAはmethylation-specific polymerase chain reaction(MS-PCR)法に用い、p16、adenomatous polyposis coli (APC)、およびretinoic acid receptor(RAR)βの各遺伝子のプロモータ領域メチル化について検討した。[結果・考察]非喫煙者と比較して、重喫煙者(喫煙指数≧600)では有意に喀痰中炭粉量が多かった。また、細胞診標本内のがん細胞の有無にかかわらず、非肺がん患者と比較して肺がん患者では有意に炭粉量が多かった。一方、DNAメチル化について検討した3遺伝子のいずれも、細胞診標本内のがん細胞め有無にかかわらず、メチル化検出率は非肺がん患者より肺がん患者に有意に高かった。以上より、喀痰中炭粉量およびDNAメチル化は、細胞診所見とは別に、肺がん患者ないし肺がん高危険群を選別する際の有効な指標となりうることが示唆された。
|