【緒言】前年度までの研究において、組織所見上進行がんと考えられる肺腺がんでは、初期がんと考えられるものより、肺の炭粉沈着量が多いこと、非肺がん患者と比較して、肺がん患者の喀痰では炭粉量が多く、がん関連遺伝子であるp16、APC、RARβ遺伝子のDNAメチル化の頻度が高いことを明らかにしてきた。今年度の研究では、p16遺伝子の異常につき、小型肺腺がん症例を用いて解析し、その組織分類や術後生存率との相関を検討した。 【方法】最大径2cm以下の小型肺腺がん57例を対象とした。各例のメタノール固定組織標本よりDNAを抽出し、p16遺伝子プロモータ領域の異常メチル化とp16遺伝子近傍の染色体領域9p21のヘテロ結合性喪失(LOH)について検討した。また、各例のメタノール固定組織標本を用いて、免疫組織化学により、p16蛋白の発現について検索した。以上の結果は、小型肺腺がん各例の臨床病理学的所見や術後生存率と対応させつつ解析した。 【結果・考察】57例の小型肺腺がんのうち、23例(40.4%)のがんでp16遺伝子プロモータ領域の異常メチル化を認めた。この23例中9例では、非腫瘍部の肺にも異常メチル化がみられた。また、9p21領域のLOHは57例中23例(40.4%)に認められた。一方、57例中29例(50.9%)は、免疫組織化学的にp16蛋白の発現が喪失していた。これらp16遺伝子・蛋白の異常と、性、喫煙指数、病理病期、リンパ管侵襲、核分裂係数、分化度、あるいは小型肺腺がん分類との間に、有意な相関を認めた。術後生存率については、異常メチル化を示すものは示さないものより、また、LOHを示すものは示さないものより、有意に低かった。以上より、喫煙等によるp16遺伝子のメチル化は、肺腺がん発生の初期に生ずるとともに、増悪を助長する要因の1つと考えられた。
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