研究代表者は、ヒト糸球体腎炎の発症に、ヒト内在性レトロウイルス由来自己抗原が関与する可能性を考え、マウス内在性レトロウイルスenv遺伝子産物に対するモノクローナル抗体を用いて、各種腎生検標本を検索した。その結果、IgA腎症症例の約30%について陽性所見を得た。モノクローナル抗体が交差反応する以上、この沈着抗原をコードする遺伝子は、マウス内在性レトロウイルスenv遺伝子と塩基レベルで相同性を有すると考えられる。 本計画は、この沈着抗原をコードする遺伝子の単離を目的としている。申請者らは、インフォームド・コンセントを得た後に構築した当該疾患患者ゲノムライブラリーのスクリーニング、及びバイオインフォーマティクスの手法によって、マウス内在性レトロウイルスenv遺伝子と塩基レベルで相同性を有する遺伝子断片を多数同定した。本年度は、これらの遺伝子断片の塩基配列を解析した結果、ほぼ完全長のOpen Reading Frameをもつ、新規のヒト内在性レトロウイルスenv遺伝子を見出すことが出来た。サザンブロット解析の結果、この新規ヒト内在性レトロウイルスenv相伝子に極めて相同性の高い塩基配列が、ヒト染色体上に多数存在することが判明した厳しい条件で行ったノザンブロット解析では、このenv遺伝子転写産物の発現は検出できなかったが、バイオインフォーマティクスの手法では、塩基レベルの相同性が極めて高い転写産物を同定できた。すなわち、我々が見出した新規ヒト内在性レトロウイルスenv遺伝子は、転写産物を発現する機能を有していることが示唆された。現在、このenv遺伝子をタンパクレベルで発現させるための、真核細胞発現系を構築中である。
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