研究概要 |
1.E-cadherin複合体に含まれる既知分子の動態変化の観察 これまでにE-cadhcerinに直接結合する分子として、α,β,γ,δ-catenin, Shcといった分子が報告されている。高頻度にE-cadherin遺伝子の不活化が知られている乳がん並びに胃がんの臨床検体を用いてE-cadherinの発現の変化に伴うそれらの分子の動態変化を免疫組織学的に観察した。その結果β-cateninの発現が、E-cadherinの消失に伴い著明に減少することを見い出した。一方α,δ-cateninは膜における発現が消失するものの、細胞質の発現は残存あるいは増加していた。E-cadherinの発現が正常あるいは減少や消失を認める複数の乳がん細胞株について、免疫組織学的あるいはウエスタンブロットにより検討を進めた結果、上記の臨床材料の結果と同様にE-cadherinの減少に伴いカテニン分子群の発現量と局在の変化を認めた。 2.δ-cateninの過剰発現による細胞の変化 大腸がん(HCT116)、乳がん(MCF7)、ヒト胎児腎臓由来上皮細胞(HEK293)、マウス正常乳腺上皮細胞(NMuMG)を用いて、δ-cateninの過剰発現による細胞の変化を検討した。その結果、δ-cateninの過剰発現に伴い上皮様形態が失われ、アクチン細胞骨格系の変化を伴う多数の突起の出現を認めた。多くのがんではE-cadherinの減少に伴い、上皮細胞から間葉細胞様に形態変化を来し、細胞の運動能の亢進に伴い突起の増加を来すことが知られており、δ-cateninの発現増加が関与している可能性が示唆された。今回検討した細胞株を用いたδ-cateninの安定発現株の樹立は困難であったが、唯一HEK293細胞を用いて、δ-cateninの安定高発現株を複数得ることに成功した。この細胞株を用いて、in vitroでの増殖能あるいは足場非依存性増殖能、および運動能について検討する予定である。 3.E-cadherin複合体の精製とその構成分子の同定 複数のがん細胞株を用いて、抗E-cadherin抗体による免疫沈降の条件を検討した。免疫沈降物を用いたウエスタンブロットにて、既知のカテニン分子群が共沈することを確認し、免疫沈降の条件を決定した。更に、現在いくつかの細胞内情報伝達に関連する分子がE-cadherin複合体に含まれるかについて検討中である。
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