研究概要 |
1.E-cadherin複合体に含まれる既知分子の動態変化とがん細胞の浸潤性における意義 これまでにE-cadherinに直接結合する分子として、α,β,γ-catenin, p120ctnといった分子が報告されている。高頻度にE-cadherin遺伝子の不活化が知られている乳がん並びに胃がんの臨床検体を用いてE-cadherinの発現の変化に伴うそれらの分子の動態変化を免疫組織学的に観察した。その結果、β-cateninの発現、E-cadherinの消失に伴い著明に減少することを見い出した。一方p120ctnは膜における発現が消失するものの、細胞質の発現は残存あるいは増加していた。E-cadherinの発現が正常あるいは減少や消失を認める複数の乳がん細胞株について、免疫組織学的あるいはウエスタンブロットにより検討を進め、上記の臨床材料の結果と同様の結果を得た。RNAiを用いて細胞質に局在しているp120ctnの発現を減弱させたところ、乳がん細胞の細胞形態の変化と運動能の低下を認めた。更にこれに伴い、細胞骨格系の調節に重要である低分子量GTPase Rhoの活性増加を認め、E-cadherinの消失に伴う乳がん細胞の浸潤においてp120ctnがRhoを介した情報伝達系を通じて関与していることを見いだした。 2.p120ctnの過剰発現による細胞の変化 大腸がん(HCT116)、乳がん(MCF7)、ヒト胎児腎臓由来上皮細胞(HEK293)、マウス正常乳腺上皮細胞(NMuMG)を用いて、p120ctnの過剰発現による細胞の変化を検討した。その結果、p120ctnの過剰発現に伴い、上皮様形態が失われ、アクチン細胞骨格系の変化を伴う多数の突起の出現を認めた。多くのがんでは、E-cadherinの減少に伴い、上皮細胞から間葉細胞様に形態変化を来し細胞の運動能の亢進に伴い突起の増加を来すことが知られており、p120ctnの発現増加が関与している可能性が示唆された。 3.E-cadherin複合体の精製とその構成分子の同定 新規のE-cadherin結合分子を単離する目的で、複数のがん細胞株を用いて、抗E-cadherin抗体による免疫沈降を行った。免疫沈降物を用いたウエスタンブロットにて既知のカテニン分子群が共沈することを確認し、更に新規の分子がE-cadherin複合体に含まれる結果を得た。
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