研究概要 |
β-cateninの変異アレル、正常アレル各々を持つ大腸癌細胞株HCT116に対して相同組み換えにより各々のアレルを破壊した株を用いて、β-catenin発現、TCF/LEF1依存性の転写活性への影響とともに増殖、足場非依存性増殖能など腫瘍の悪性度にかかわる表現型に付いて解析を行った。変異アレルを破壊した株についてはb-catenin発現の低下とTCF/LEF1依存性転写活性の低下を認め、遺伝子変異によるβ-catenin安定化への影響が確認できた。また、通常の培養条件下においてはいずれの株も大きな形態的変化は来たさなかったが、低血清培養条件下においては親株、正常アレル破壊株が球状となって増殖するのに対し、変異アレル破壊株は平面的な増殖を示し、基質接着能の変化が示唆された。しかしながら、in vitroでの増殖、足場非依存性増殖能に変化は認められず、ヌードマウス皮下移植におけるin vivoでの増殖能は、むしろ変異アレル破壊株において増加を認めた。以上の結果から、大腸癌細胞株HCT116においてはβ-catenin遺伝子変異は腫瘍としての悪性度には寄与していないと考えられる。大腸癌発癌におけるgatekeeper遺伝子であるAPC,β-catenin遺伝子の多段階発癌の中での影響、その治療標的としての可能性についてはさらなる慎重な検討が必要である。 変異p53遺伝子破壊細胞株については現在ベクターの導入、薬剤による選択を行っており、引き続き破壊細胞株の樹立を目標として実験を進めていく予定である。
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