本年度は、前年度樹立した変異β-catenin遺伝子破壊大腸癌細胞株を用いて主に蛋白発現の変化を中心として解析を行った。親株である大腸癌細胞株HCT116と、本研究で樹立したβ-catenin変異アレル破壊株・正常アレル破壊株それぞれを用いてadherence junctionを構成する蛋白の発現を比較した結果、E-cadherinをはじめとする蛋白発現の変化を見いだした。このうちE-cadherinは変異アレルの存在下において主に細胞内プールの発現量が低下しているが、mRNAの発現解析からこの変化は転写非依存性であることが示唆された。この結果はWntシグナルとE-cadherin発現の相互作用に関して、これまでに報告されている転写を介した機構とは異なる経路の存在を示唆するものと考えられる。現在、変異β-cateninによるE-cadherinの発現低下の機構を中心として引き続き検索を進めている。また、これらの蛋白発現の変化による機能的な影響に関しては、これまでの解析からは少なくとも静的な状態では細胞問接着能には大きな変化を来していないと考えられる結果を得ているが、動的な状態を含めて機能に与える影響についても、今後引き続き検索を進める。
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