病理学における大きな診断要素とされている核異型事象を、分子細胞生物学的に遺伝子レベルで解明することを目指して本実験は計画された。すなわち強制発現プロモーター下流に全長のcDNAライブラリーをdirectionalに組み込み、さらにその下流にバイシストロニックな共発現が可能になるIRES部位を介しで導入マーカー兼核形態観察マーカーである核局在性のGFP遺伝子を配したベクター系をスクリーニングに用いることで、遺伝子導入された細胞のみで核の形態が蛍光顕微鏡下で観察可能になるという、独創的実験系を利用した遺伝子探索計画である。 ホスト細胞やベクターの改変などを詳細に行うことで昨年度有効性を確認したこの実験系を利用して、今年度は順調に核の形態変動を指標としたスクリーニングを行った。当初の予定通り半自動化した機械による陽性クローン選択と同時に、肉眼観察によるより詳細な判別を並行利用したため、当初の予想より一次選択で時間がかかってしまったものの、数的に目安となる目標であった約20000クローンのスクリーニングは終了した。 より確実な原因遺伝子を選択する目的で数回にわたり選択プロセスを繰返し、更にスクリーング過程で混入した混在クローンから原因遺伝子を取捨して選び出した結果、24個の核形態変化を惹起する遺伝子を選び出した。 これらの遺伝子としては核内移行・核外移行関連遺伝子やアポトーシス関連遺伝子など、核の形態変動を引き起こす可能性が高い遺伝子が過半を占める一方、現時点で全く機能不明な遺伝子や、従来から解析されているものの核形態に関連する機能などは全く想定されていない遺伝子などがあり、その内訳は多岐に亘っていた。 現在核形態に関して新規の機能が想起されるような遺伝子や特徴的な形態変化を引き起こす9個の遺伝子について更なる解析を行っている。
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