研究概要 |
腫瘍モデルマウスを使った実験では、TGF betaを中和する分泌型TGF受容体Fc分子の投与により一度大きくなった腫瘍の退縮が起こる。この機構がどこに作用点を持つかを探る目的で、まずTGF beta1による樹状細胞(DC)活性化の変化を調べた。その結果、TGF beta1自体は樹状細胞の活性化に大きな影響を及ぼさななかったが、その過程で次の事が判明した。1)CD40シグナルはDCの活性化維持に必要。2)一時的に活性化したDCは、IL-10依存性に脱活性化する。3)脱活性化したDCは、ケモカイン受容体発現が少なくリンパ節に移行出来ない。次に活性化を維持したDCまたは脱活性化したDCでマウスを免疫したところ、前者は強いin vivo CTL活性を誘導したが、後者はCTL活性をほとんど誘導できなかった。この結果からIL-10によるDCの脱活性化に着目し、腫瘍接種マウス生体でのDC活性化を維持する目的で次の実験を行なった。OVAペプチドとともにCpGおよび抗IL-10抗体をE.G7接種マウスに投与したところ、分泌型TGF受容体Fc分子の投与と同様に腫瘍の退縮がみられた。これらを総合すると、腫瘍が免疫から逃れる機構はTGF betaおよびIL-10の相乗的な作用であると考えられた。さらに、これら2種のサイトカインのソースを調べたところ、腫瘍自体がTGF betaやIL-10を産生している訳ではなく、むしろ腫瘍周囲間質細胞(tumor induced stromal cells, TISC)が主たる産生源であることが判明した。従って、腫瘍の免疫認識からの回避は、腫瘍自体により誘導されるよりは、むしろ周囲の正常細胞側の防御反応としての作用によるものと考えられた。
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