研究概要 |
[材料と方法]Wnt伝達系の重要な構成要素であるβ-cateninとcyclinD1の発現を、セミパラチンスク核実験周囲地域(SNTS)からの慢性甲状腺炎9例、濾胞腺腫8例、乳頭癌23例において免疫組織化学的に検討した。対照として日本の散発性乳頭癌87例を同時に検討じた。[結果](1)β-catenin発現:SNTS乳頭癌全例に、強い細胞質内局在を認めた(P<0.001,vs散発性)。慢性甲状腺炎と濾胞腺腫は、各々22.2と37.5%に弱い細胞質内局在を認めた。一方、散発性乳頭癌の77.0%が強い細胞質内局在を示した。(2)cyclinD1発現:SNTS乳頭癌の87.0%に過剰発現をみた(p=0.041,vs散発性)。慢性甲状腺炎は全例陰性、濾胞腺腫は62.5%に過剰発現を認めた。一方、散発性乳頭癌の81.6%が過剰発現を示した。(3)β-cateninの細胞質内発現とcyclin D1過剰発現の相関:慢性甲状腺炎、濾胞腺腫、乳頭癌を含めたSNTSの甲状腺病変において、cyclinD1の過剰発現はβ-cateninの細胞質内免疫活性と正の相関(P<0.001)を示した。乳頭癌組織でのβ-cateninとcyclinD1の二重染色では、cyclinD1の過剰発現はβ-cateninの細胞質内活性を示す部、あるいは細胞膜活性の減少した部に局在していた。[考察]SNTSの乳頭癌ではβ-cateninの発現異常とcyclinD1過剰発現が、散発性乳頭癌より有意に高頻度であり、SNTSの甲状腺病変においてはβ-cateninの細胞質内発現とcyclin D1過剰発現の正の相関がみられだ。放射線誘発甲状腺腫瘍発生過程におけるWnt伝達系の関与が示唆される。[結論]SNTSの甲状腺癌におけるWnt伝達系構成分子の変異の解析は、放射線誘発甲状腺腫瘍発生過程の理解に重要であると思われる。
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