研究概要 |
本研究では細胞死受容体のadaptor分子であるFADDの194 serineのリン酸化がもたらす抗癌剤感受性への影響とその分子メカニズムについて前立腺癌細胞を用いて解析した。 [結果] 原発性あるいは転移性前立腺癌細胞株であるLNCaP, PC-3, DU145に野生型FADDあるいはリン酸化類似のFADDを強発現させるとetoposide誘導性JNKの活性化がすみやかに生じそれに続いてapoptosisが強く促進されたが、リン酸化不能の変異型FADDでは同様の促進は認められなかった。またdominant-negative変異遺伝子を強発現させてJNKを不活化させるとFADDを介したapoptosisの促進が有意に阻害された。これは、FADD 194 serineがリン酸化されると抗癌剤によるJNKの活性化が促進され、JNK依存性のシグナルを介してapoptosis感受性が著しく上昇することを意味した(Jpn. J. Cancer Res. 93:1164, 2002)。 次に、前立腺癌細胞におけるJNK誘導性apoptosisシグナルについて検討したところetoposide刺激によるJNK活性化に依存してFasが活性化され、いわゆるdeath-inducing signaling complexの形成を介してFas依存性シグナルが作動しapoptosisを誘導することが分った(The Prostate, In press)。以上の事実から、前立腺癌細胞ではFADD194 serineのリン酸化が抗癌剤によるJNKの活性化を促進させ、従来より知られるミトコンドリアを介する経路だけでなく、Fas活性化を介する経路も加えてより効率良く抗癌剤誘導性apoptosisをもたらすと考えられた。現在、etoposide以外の抗癌剤誘導性apoptosisにおけるMAP kinaseの役割(Mol. Carcinog. 35:3, 2002 ; Mol.Carcinog., In press)や内因性FADDのリン酸化を来す臨床応用可能な薬剤の同定を行っている。
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