研究概要 |
筋ジストロフィー(筋ジス)は「筋繊維の変成、壊死を主病変とし、臨床的には進行性の筋力低下をみる遺伝性の疾患」と定義されている。最も重篤な病状を示すデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は新生男児の3500人に1人の高頻度で見られる。DMDは年齢依存的に進行していくため、DMD患者には筋萎縮や筋力低下をもたらす他の因子も存在していると推察される。このような因子を同定するために、我々は正常マウスとDMDのモデルマウスであるmdxマウスの骨格筋由来の細胞株をそれぞれ作製し、mdx変異により発現変動する遺伝子をマイクロアレイ解析を用いて探索した。その結果、mdxマウス細胞株で発現が低下している新規の分子、regeneration -associated muscle protease (RAMP)を得た。マウスRAMPはtrypsin-like serine protease domain, CUB domain, Sushi domainを持ち、720アミノ酸からなる機能未知の分泌性タンパク質であった。RAMP mRNAは正常なマウスの骨格筋と脳に発現し、特に筋損傷を与えられた骨格筋内の再生部位で強く発現誘導された。さらに、ヒト正常骨格筋由来の細胞株と比べ、6人のDMD患者骨格筋由来の細胞株ではRAMP mRNAの発現は低下していることが明らかになった(東京女子医大・斉藤加代子博士、神戸大・松尾雅文博士との共同研究)。これらの結果はRAMPが骨格筋の再生過程に働き、その発現低下はヒトDMDの病態進行にも関与している可能性を示唆している。現在RAMPトランスジェニックマウスを作製し、筋再生におけるRAMPの機能を検討している。さらにノックアウトマウスも作製中であり、これらのマウスの解析を行うことにより筋再生時のRAMPの機能を明らかにできると考えられる。またmdxマウス細胞株で発現昂進していたThymosin β4の発現と機能解析を行った。その結果、Thymosin β4 mRNAはマウス筋再生時に発現昂進する事が明らかになった。さらに、Thymosin β4はin vitroでマウス筋細胞株C2C12の移動を促進し、またC2C12にはThymosin β4に対する走化性があることが明らかになった。Thymosin β4のトランスジェニックマウスも作製したので、これを利用することによりThymosin β4を筋再生の関係をより詳細に検討する予定である。
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